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“2025年の崖”とは? DX推進における企業の課題と対応策について

ビジネス環境や働き方の変化に対応するために、デジタル技術を活用して業務・企業風土などのビジネスモデルを変革するDX(Digital Transformation:デジタル・トランスフォーメーション)がさまざまな業界で進められています。

ワーカーが働くオフィスについても、テレワークの普及やペーパーレス化の推進に伴い、DXによる変革が求められています。そうしたなか、経済産業省の『DXレポート』では、DX推進を阻む企業課題の一つである“2025年の崖”について述べられています。

この記事では、2025年の崖の概要をはじめ、DX推進の課題や企業における対応策について紹介します。


目次[非表示]

  1. 1.2025年の崖とは
  2. 2.レガシーシステムを抱えることによる課題
    1. 2.1.限定的なデータの活用
    2. 2.2.保守運用にかかるコストの増加
    3. 2.3.保守運用の担い手不足
  3. 3.2025年の崖を乗り越える5つの対応策
    1. 3.1.①DX推進システムガイドラインの策定
    2. 3.2.②指標・診断スキームの構築
    3. 3.3.③コスト・リスク低減のための対応
    4. 3.4.④ユーザー企業とベンダー企業の新たな関係構築
    5. 3.5.⑤DX人材の育成・確保
  4. 4.まとめ


2025年の崖とは

2025年の崖とは、既存システムの複雑化・ブラックボックス化によってDXの実現が阻まれた場合に、発生すると予測される経済損失のことです。経済産業省が2018年に公表した『DXレポート』で提唱されました。

ビジネス環境や働き方などが目まぐるしく変わる現代において、企業が競争力を強化しながら成長を続けるにはDXの取組みが不可欠です。

しかし、既存システムが事業部門ごとに構築されている、過剰なカスタマイズがなされている環境下では、複雑化・ブラックボックス化してしまうといった課題があります。

こうした既存システムの課題を抱えている状態では、全社横断的なデータ活用ができず、DXの実現は困難になります。さらに、システム維持管理費の高額化やシステムトラブルのリスクが高まることも懸念されます。

これらの課題を解決できなければ、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性が示唆されています。これは、現在の約3倍にあたる経済損失です。

こうした経済損失を防ぎ、DXを本格的に推進するためには、2025年までにビジネスモデルの変化に追従できるITシステムへと刷新する必要があります。また、既存システムの刷新に伴い、業務自体の見直しも求められます。

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)



レガシーシステムを抱えることによる課題

レガシーシステム()を抱えていると、DX推進の足かせとなるだけではなく、企業のさまざまな課題につながると考えられます。

経済産業省の『DXレポート』によると、「レガシーシステムを抱えている」と回答した企業は、産業全体の約8割です。なかでも金融・社会インフラの分野では割合が高い状況です。さらに、約7割の企業が「老朽システムがDXの足かせになっている」と回答しています。


レガシーシステムを抱えることによる課題

画像引用元:経済産業省『DXレポート


ここからは、企業がレガシーシステムを抱えることによって生じる課題について解説します。


※レガシーシステムとは、老朽化、肥大化・複雑化、ブラックボックス化したシステムのこと。

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)


限定的なデータの活用

システムがブラックボックス化した状態では、市場・顧客の変化や新たな事業に対応しにくいといった課題があります。

各事業部門で個別最適化を優先されたため、システムが複雑化して企業全体での情報・データ管理が困難になっています。全社横断的なデータの利活用ができない環境でAI・IoTなどの新たなデジタル技術を導入しても、データの利活用や連携が限定的となり、DXの効果も限られてしまう可能性があります。

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)


保守運用にかかるコストの増加

システムが老朽化・肥大化することで、維持・管理にかかる保守運用コストが高額化するといった課題も挙げられます。

レガシーシステムの運用・保守に多くの人材や資金が割かれてしまい、維持管理コストが増加することがあります。

経済産業省『DXレポート』によると、“レガシーシステムがDXの足かせとなる理由”のうち、コスト面で以下のような課題が挙げられています。 


▼DXの足かせとなっている理由

  • 維持・運用費が高く、改修コストを捻出しにくい
  • 特定メーカーの製品・技術の制約があり、多大な改修コストがかかる
  • 技術者の確保に多大なコストがかかる

一時期の投資でシステムを部分的に現代化したとしても、一時的なコスト削減効果のみで、時間とともに再度レガシー化する可能性があります。

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)


保守運用の担い手不足

保守運用に必要な技術者を確保できずに、担い手不足が発生することもレガシーシステムを抱えることで直面する課題の一つです。

ブラックボックス化・複雑化したシステムでは、保守運用が属人的になってしまい、継承が困難です。また、これまで保守運用の担い手だった人の退職・高齢化によって、人手不足になることも考えられます。

経済産業省『DX レポート(サマリ―)』によると、2025年にはIT人材が約43万人不足すると予測されています。将来的には、先端IT人材の供給不足や、古い技術知識を有する人材の供給不可が懸念されます。

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)



2025年の崖を乗り越える5つの対応策

2025年の崖を乗り越えるには、システムの刷新・再構築によってレガシーシステムの課題を解消することが重要です。

ここからは、2025年の崖を乗り越えるための企業の対応策について解説します。


①DX推進システムガイドラインの策定

DX推進システムガイドラインとは、ITシステムの刷新・構築のための適切な体制や実行プロセスなどをまとめた指針です。

企業のトップとワーカーが、DXの必要性や役割について共通認識を持ち、円滑な意思疎通のもと、DXの取組みを行うためにガイドラインを策定します。

ガイドラインに示しておく内容には以下が挙げられます。


▼DX推進システムガイドラインの策定内容

  • 経営戦略におけるDXの位置づけ
  • レガシーシステム刷新のための体制・仕組み
  • DX実現に向けた実行プロセス

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)


②指標・診断スキームの構築

既存システムの現状・課題を経営者自らが判断するための指標・診断スキームを構築することも、2025年の崖への対応策の一つです。

経営者自らが、システムの現状・課題・放置した場合のリスクなど、経営上の課題を理解して、適切にガバナンスできるようにすることが大切です。

そのための対応策には、システムの現状・課題を把握するための見える化指標の策定や中立的で簡易に行える診断スキームの構築が挙げられます。

指標・診断スキームの構築は、現状のITシステムの全体像を把握して、レガシーシステム脱却のために必要な施策を検討する際に役立ちます。


▼評価指標・診断スキームの策定例

  • 技術的負債の対象と度合い
  • IT成熟度やデータの利活用の現状
  • DXの体制・仕組み・実行プロセスの状況

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)


③コスト・リスク低減のための対応

ITシステムの刷新・再構築を行う際は、システム構築に対するコスト・リスクを低減するための施策を検討することも欠かせません。

ITシステムの刷新には莫大なコスト・時間がかかるほか、刷新自体が目的化してしまうと、再びレガシー化する可能性があります。

こうしたコストやリスクを低減するために、明確な目標を設定したり、情報資産の現状を分析・評価したりすることが重要です。


▼コスト・リスクを低減するための対応

  • システム刷新後の目標設定・共有
  • 不要なシステムや機能の廃棄・軽量化
  • システム刷新時のマイクロサービス化の検討
  • 協調領域での共通プラットフォームの構築

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)


④ユーザー企業とベンダー企業の新たな関係構築

DXを進めるにあたっては、ユーザー企業とベンダー企業の役割にも変化が生じることが考えられます。

ユーザー企業では、IT人材不足により、ベンダー企業に経験・知見を含めて頼らざるを得ない状況にあります。そのため、ユーザー企業とベンダー企業の間で、責任関係やアジャイル開発における契約関係上のリスクを踏まえて、良好な関係のもと、IT システムの刷新・DXを進めることが重要です。


▼ユーザー企業とベンダー企業の関係性の見直し例

  • ユーザー企業とベンダー企業の目指す姿を明確化する
  • システムの再構築やアジャイル開発に適した契約ガイドラインに見直す
  • 技術研究組合の活用を検討する
  • ADR(裁判外紛争解決手続)の活用を促す

出典:経済産業省『DXレポート』『DX レポート(サマリ―)


⑤DX人材の育成・確保

2025年の崖を乗り越えるためには、システム刷新をはじめ、デジタル技術・データの利活用ができる人材の育成・確保も必要不可欠です。

既存システムの維持・保守業務を担当していた人材は、DX分野にシフトしていくことが求められます。DXの実現に必要な人材スキルを整理したうえで、以下のような取組みを実施して、人材育成を進めます。


▼DX人材の育成・確保に向けた取組み

  • IT技術者のスキルの標準化
  • 情報処理技術者試験、講座認定制度の導入



まとめ

この記事では、DXにおける2025年の崖について以下の内容を解説しました。

  • 2025年の崖とは
  • レガシーシステムを抱えることによる課題
  • 2025年の崖を乗り越えるための5つの対応策 

2025年の崖は、DXを実現できなかった場合に2025年以降に発生する経済損失のことをいいます。企業の経済損失を防ぐためには、複雑化・ブラックボックス化したシステムの課題を解消する必要があります。

レガシーシステムを刷新して本格的なDXを実行することで、既存システムの維持・保守業務にかけていたリソースをほかの分野にシフトして、効率的な経営の実現に貢献します。

また、顧客や市場の変化に迅速に対応できるようになれば、プロダクト・サービスを素早く国際市場に展開でき、優位性の構築、競争力の向上が期待できます。

オフィスでのDXを推進する際は、各部門に設置された既存システムやデータの管理方法・活用範囲を把握することが重要です。そのうえで、ITシステム環境・業務内容などの見直しを図ってみてはいかがでしょうか。

DX推進におけるオフィスでの取組み例は、こちらの記事をご覧ください。

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