【実施率11.7%】ワーケーションの課題と対策
近年、働き方の多様化が進んでおり、なかでもテレワークは在宅勤務やモバイルワークなど、時間・場所にとらわれない働き方として知られています。また、“ワーケーション(Workcation)”もその一つです。
ワーケーションとは、ワーク(Work)とバケーション(Vacation)からなる造語です。実施形態は休暇型・業務型に分けられ、そのうち業務型は、地域課題解決型・合宿型・サテライトオフィス型に分類されます。広く認知されているのは休暇型ではないでしょうか。
休暇型は、リゾート地や観光地などで休暇を過ごしながら、休暇の合間に業務を行うという働き方です。企業にとっては長期休暇の取得促進、ワーカーにとってはリフレッシュ、受け入れ先の地域にとっては地方創生というメリットがあります。
このように、三者間で利益が見込める、いわゆるWin-Win-Winの関係が成り立つことから、観光庁では“三方良し”として、ワーケーション全体の普及を目指しています。
しかし、観光庁が実施した調査では、多くの企業がワーケーションの実施に踏み切れていないことが分かります。
画像引用元:観光庁『受入地域・観光事業者の皆様』
「実施した経験がある」「会社では実施しているが自分は経験がない」という回答があわせて11.7%という結果を鑑みると、企業がワーケーションの導入を図るには、何らかの障壁があると考えられます。
そこで、本記事では、ワーケーションの課題と対策、導入によって想定される効果について解説します。
出典:観光庁『「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー』『受入地域・観光事業者の皆様』
目次[非表示]
- 1.ワーケーションの課題と解決策
- 1.1.運用面に関して
- 1.1.1.①“ワーク”と“休暇”を区切る社内の取り決めを行う
- 1.1.2.②明確な評価基準の設定で不公平感の解消を図る
- 1.1.3.③情報漏洩対策を整備した受け入れ施設を選択する
- 1.1.4.④労災適用の判断のポイントを決める
- 1.1.5.⑤社員の勤怠管理や給与計算にシステムを活用する
- 1.1.6.⑥評価の方法・内容を明確にして効果を可視化する
- 1.1.7.⑦ガイドラインを参考にした基準を定める
- 1.1.8.⑧企業側とワーカー側の費用負担を明確にする
- 1.2.ワーケーションそのものに関して
- 2.ワーケーションで想定される効果
- 3.まとめ
ワーケーションの課題と解決策
なぜワーケーションの導入企業が少ないのでしょうか。企業が抱えるワーケーションの課題は、観光庁公表の『「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書』で取り上げられています。
画像引用元:観光庁『「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書』
このデータを見ると、「業種としてワーケーションが向いていない」を除けば、“運用面に関する課題”と“ワーケーションそのものに関する課題”の大きく2つに分けられます。それぞれの解決策を以下で解説します。
出典:観光庁『「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書』
運用面に関して
労務や人事を中心としたワーケーションの運用に関する課題の解決策としては、次の8つが挙げられます。
①“ワーク”と“休暇”を区切る社内の取り決めを行う
旅行先で休暇を楽しみながら、時間を決めて仕事をするという働き方が難しいという課題があります。仕事モードに切り替えられなかったり、休暇を楽しむつもりが最終的にずっと仕事をしてしまったりする可能性も考えられます。
自己管理に任せる部分が大きいため、確認が難しいところではあります。対策としては、会議の時間だけ勤務するといった勤務時間・業務範囲の取り決めが有効です。
②明確な評価基準の設定で不公平感の解消を図る
医療機関や製造業、接客業などワーケーションの実施が難しい業種もあります。社内でも業務によってワーケーションの可否が分かれてしまうことで、不公平感が生じる可能性があることも課題の一つです。
不公平感を完全に払しょくすることは困難ですが、業務方法の見直しにより、ワーケーションが可能な人材を増やしていくことも重要です。
また、評価基準を明確にして、ワーカーへ共有することも不公平感を生じにくくする対策になるといえます。
③情報漏洩対策を整備した受け入れ施設を選択する
観光地やコワーキングスペースなど、社外へパソコンを持ち出すことで、顧客情報や企業情報などの機密データが漏洩する可能性があります。情報漏洩が起こる状況として、パソコンの紛失やウイルス感染、不正アクセスなどが挙げられます。
ワーケーションを受け入れる施設でセキュリティの環境整備を実施しているところもあるため、整備できている施設に限定するという方法が有効です。
事前にチェックしたい受け入れ側のセキュリティ対策として、入退室管理が可能か、個室で会議が行えるか、Wi-Fiの安全性は高いかなどが挙げられます。
④労災適用の判断のポイントを決める
旅行先では、オフィスで行う通常の業務では想定できないような事故・怪我が起こる可能性があります。
企業として、労災保険給付の対象か悩んでしまいますが、業務によるものか、プライベートによるものかといった判断のポイントを定めておくことが重要です。
また、観光庁は、ワーケーションにおける労災の適用対象について以下のように記載しています。
ワーケーションには、様々な就業形態が考えられること等から、労災保険給付の対象になるか否かについては、個別案件ごとに判断することとなりますが、このうち出張(注1)と認められる場合については、事業主の管理下を離れているものの労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をするものであり、その過程全般について事業主の支配下にあるものと考えられることから、私的行為を行うなど特段の事情(注2)がない限り、原則、労災保険給付の対象となります。
(注1)出張とは、事業主の命令により、特定の用務を果たすために、通常の勤務地を離れて出張地に赴いてから、用務を果たして戻るまでの一連の過程を含むものです。
(注2)出張に通常伴う付随行為の範囲(食事、喫茶、睡眠等)を逸脱しているといった事情。
引用元:観光庁『労災や税務処理に関するQ&A』
⑤社員の勤怠管理や給与計算にシステムを活用する
『労働安全衛生法』第66条の8の3では、事業者が労働時間の状況を適切に把握することが義務付けられています。ワーケーションも例外ではなく、労働時間の記録・管理が必要ですが、勤務状況を確認できないため管理が難しいといった課題があります。
対策方法としては、クラウド上で実施する勤怠管理システムの導入が挙げられます。
そのほか、有給休暇の取得を時間単位で申請できるようにしておくことで、働き方の柔軟性につながりやすいといえます。ただし、時間単位の有給休暇を導入する場合は、就業規則への記載と労使協定の締結が必要です。
⑥評価の方法・内容を明確にして効果を可視化する
ワーケーション導入にあたって、人事評価が難しいといった課題もあります。業務状況が目に見えないため、ワーケーションが可能なワーカーとそうでないワーカーで評価方法を統一することが難しく、ワーカーの不満が生じるおそれもあります。
この場合、事前に業務の内容や達成水準を決めて、その成果で評価を行うのが有効です。もちろん、評価方法・評価内容などを明確にして、ワーカーへ共有することも忘れてはいけません。
また、効果を知るには、実施したワーカーにワーケーション前後にアンケートをとり、比較することで効果の可視化が可能です。観光庁の『「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー』という企業向けパンフレットでは、ワーケーションを導入した企業の意見を見ることができます。
⑦ガイドラインを参考にした基準を定める
ワーケーションを円滑に運用するには、事前準備として就業規則の見直しや整備も必要です。就業規則を変更する際は、労使間でルールを策定することが重要です。また、変更後はワーカーへの周知も求められます。
さらに、ワーカーが自由に働き方を選べる場合、事業者が就業場所の許可基準を定めておく必要があります。
事前準備を行うにあたって、厚生労働省が公表している『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』を参考にしてみてはいかがでしょうか。
⑧企業側とワーカー側の費用負担を明確にする
ワーケーションの実施には、交通費・食費・宿泊費・通信費などの費用が発生します。
休暇型・地域課題解決型・合宿型・サテライトオフィス型のうち、どのタイプを導入するかによっても異なりますが、ワーカーへの普及率を高めるためには、企業側の負担も必要です。テレワークに関わる基本的な費用をワーカーが多く負担することは望ましくありません。
また、『労働基準法』第89条第1項第5号では、労働者に食費、作業用品そのほかの負担をさせる定めをする場合、これに関する事項について就業規則を作成しなければならない旨が記されています。
プライベートな旅行を目的とした交通費や食費、宿泊費などはワーカーが負担するのが望ましいといえます。しかし、業務に必要なパソコン・スマートフォンなどの情報通信機器、通信回線は会社で負担する例が見られます。
出典:e-Gov法令検索『労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)』/厚生労働省 テレワーク総合ポータルサイト『(問13)テレワーク実施の際に要した通信費用・水道光熱費などの費用は会社が負担すべきでしょうか。』
ワーケーションそのものに関して
ワーケーションそのものに関する課題として、次の例が挙げられます。
▼課題例
- ワーケーションの定義とその制度がよく分からない
- 労働組合や社員から要望があがっていない
- 経営者・役員側の理解や支持を得られない
- ワーケーションにメリットをあまり感じない
ワーケーションに関して、単語の認知は広がっている一方、本質に関して認知が広まっていない可能性が考えられます。社内に掛け合う場合は、観光庁主導の実証実験をはじめとした事例を基に、社内で稟議にかけるといった取組みも必要です。
ワーケーションの概要についてはこちらの記事をご確認ください。
また、コロナ禍によって変わってきた働き方にどう対応していくかというこれからの時代のオフィス環境の役割については、こちらの記事で解説しています。
ワーケーションで想定される効果
ワーケーションの導入・運用には、就業規定の見直し・変更や費用負担、許可する就業場所の選定など、準備することが多々あります。しかし、それらを乗り越えた先には、次のような効果が期待できます。
対象 |
想定される効果 |
企業側 |
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ワーカー側 |
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受け入れ地域側 |
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観光庁『ワーケーション&ブレジャーの導入・推進による効果と企業経営』を基に作成
休暇と仕事を両立できることでワーカーの有給休暇の取得を促進できます。また、多様な働き方を実践している企業として外部にアピールできるだけではなく、優秀な人材の流出を抑制したり、新たな人材の確保につながったり、さまざまな効果があると考えられます。
そのほか、従業員のストレス軽減やリフレッシュ効果で、業務に対するモチベーションアップにつながれば、新たなアイデアの創出も望めます。
実際に、観光庁の『「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー』には、ワーケーションが生産性・心身の健康にポジティブな効果があるという検証結果が得られたと掲載されています。
出典:観光庁『ワーケーション&ブレジャーの導入・推進による効果と企業経営』『「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー』
【Workcation House U】
例えば小田原の根府川にあるWorkcation House U(ワーケーションハウス ユー)では、自然に囲まれ、海を眺めながら快適に過ごすことができます。
こういった環境でリフレッシュしながら、普段と異なった業務やアイデアの検討を行ってみてはいかがでしょうか。
まとめ
この記事では、ワーケーションの導入を検討している企業に向けて、以下の内容を解説しました。
- ワーケーションの課題と解決策
- ワーケーションで想定される効果
ワーケーションは、企業・ワーカー・受け入れ地域の“三方良し”として推進されていますが、実施している企業数は全体の11.7%と少ないのが現状です。
実施に際しては、今回挙げたような課題があると考えられますが、その分得られる効果も多いといえます。将来を踏まえると、特に人材確保やSDGsなどは重要な観点になると考えられます。
観光庁はワーケーションの推進に向けて、さまざまなパンフレットやガイドラインを提供しています。また、導入企業の事例も多く掲載されているため、就業規則の決め方や進め方なども参考にしてみてください。
ワーケーションの実証結果を基に、社内の理解を深めながら、設備環境が整っている施設の情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。